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負の遺産を資産だと考える若者たち

 2005年まで、横浜の黄金町の大岡川沿いには売春宿が並んでいた。
 春を売るビジネスは行政により一掃され、小さな店舗が残った。
 国際的な観光都市であり、お洒落な町として人気の高い横浜市としては、その歴史は汚点であるらしい。

 もちろん法を犯していい筈がない。が、誰でも知っているその地域は2005年までたしかに売春宿であり、夜、そこを通れば小さな小さなそれぞれの店の前には、挑発的な服装をした外国人が、学園祭の芝居小屋のように、蛍光灯にピンクや青のセロファンを巻いた照明に照らされて立っていたのだ。
 15分とか30分とか、わずかな時間にセックスを売るその場所は「ちょんの間」と呼ばれていた。
 法律はなにも変わっていないが、2005年を境に、行政はそこを「再開発」することにしたのである。いまその歴史自体も消してしまいたい負の遺産であると行政は考えているらしい。

 往時には月70万円はしたといわれるそのあたりの空いた店舗は、いまは家賃5万円で、まがりなりにも飲食店の設備が施されているから、若者がわずかな資金で店を開くことができる。
 金はないけれど実現してみたいアイデアをもった若者が、「消し去りたい負の遺産」を「文化遺産」という「資産」だと考えた。
 この町の町おこしをしてやろうじゃないかと考えた若者がいた。

 そう、新宿ゴールデン街も、都橋商店街も、ほとんど同じ空気をもっている。あるいは新橋のガード下だってそうだ。僕はゴールデン街で飲んでいる億万長者を何人も知っている。何十億円の買い物をした人が、同じ夜、1500円の飲み代を奢られている場面だって目撃したことがある。
 もちろん、いかがわしい悪の巣窟などではないし、ただの貧乏人の巣窟でもない。
 猥雑な空気こそが資産であるというのは、そこに集まる人たちが多くいることが証明している。それを積極的に必要としている人間が少なからずいるということなのだ。

 画一的なクリーンさを求め、過去の歴史をできれば封印してしまいたいと考えた行政と、その町を面白いと思った若者たちは、どうやら、どこか相容れないところがあったようだ。

 夜の9時、僕はそんな若者たちに初めて巡り会い、午前3時まで語り合った。
 ものすごく楽しかった。
 彼らのやろうとしていることは正しい。
 どうしたら、あの町を本当の意味で守っていくことができるのか、僕の頭は回り出している。


以下、彼らの好意により、ちょんの間の中を撮影させてもらった

 建物はものすごくきれいだ。
 同じように以前は青線だったゴールデン街は売春防止法(1956年)施行から立て替えられていない木造建築であるため、かなり老朽化している。だが、黄金町は2005年まで現役の売春宿であり、現代の衛生観念にそってリニューアルされている。
 飲食店であるはずなのに、トイレにシャワー設備があるのが、「そのため」の店であったことを物語る。
 店の裏口も道路に面している。万一の時も逃げ出すことができる構造だ。
 今は月5万円の家賃も、かつてはこの狭さで70万円。つまり、それだけの「上がり」があったということだ。
 物件によっては、ひとつの店の、土地と上屋、さらにはカウンターと二つの部屋が、それぞれの別の所有者になっているという。さらには日本にいない外国人の所有になっていることもあるという。
 このような権利関係の複雑さは、女一人と部屋ひとつが、それぞれにビジネスユニットであったことの名残であり、またそれがこの地区の再開発をむずかしくしている。

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 短いスカートの女が客を伴って昇ったであろう狭くて急な階段

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 壁から壁まで人が横になるぎりぎりサイズのベッドで占められている部屋。
 もはや売春宿ではないので横になっている男性は「客」ではない。(念のため)

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 小さな窓の外は大岡川。春にはサクラが咲き誇る名所だ。

 昼間の外のようすは、こちらの関連エントリーで。

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